2012年5月31日木曜日


「問題のある患者」

●月●目

患者様は大事な神様のはずなの

に、無性に腹が立つことがある。

上顎前歯6本の形成と印象予定

の患者が、予約の時間を30分過ぎ

ても来院しない。他の患者をキャ

ンセルしてまで無理矢理アポイン

トを取ったのに。しかも、余裕の診

療をしたいのでたっぷり2時問も。

元々この患者は、強引な患者だ

った。「甥の結婚式があるから、そ

れまで何とか前歯だけでも入れて

くれ」と予約なしでいきなり来院

した。前歯にはすり減ったレジン

の継続歯が並び、レントゲンを撮

ると根充も甘く根尖病巣もあった。

歯肉も腫れていて、おまけに臼歯

部のブリッジは咬耗がひどくてバ

イトが下がっている。結婚式まで

の1ヵ月足らずのうちに、エンド

やペリオの処置をして、咬合平面

の修正を終えることはとうてい無

理だということを、初診の時に繰

り返し患者に説明した。ところが、

患者は納得せず前歯だけでも何と

か見た目をそろえてくれ、とドス

の利いた声で注文してくる。気の

弱い僕は、こういうこわもてのひ

とは大の苦手だ。

「金はなんぼでも出す」という

一言に僕のスケベ根性は触発され

て、歯周治療もそこそこに急いで

エンドのやり直しをして、前歯に

テンポラリーの修復までこぎつけ

た。今日印象すればぎりぎり結婚

式前日までに最終補綴物がセット

できるというので、今日の予約に

なったのだが……。

受付が電話をかけてみるが連絡

がつかない。イライラしながら2

時問を過ごしたところに患者から

電話。「仮歯のままでいいから」と

いう一言でガチャン。腹が立つや

ら、ほっとするやら。

●月●目

患者様は常に弱者だからわがま

まを聞いてあげなければならない

のだが、無性に腹が立つことがあ

る。

長年義歯で苦労をしてきた老人。

会社を経営しているジェントルマ

ンだ。下顎の前歯部だけがブリッ

ジで残存しているが、他は義歯。

特に上顎はすぐ落ちてくる。「見栄

えなんかどうでもいいから、とに

かく入れ歯が落ちなければいい」

という患者の希望を叶えるべく、

インプラントをしてオーバーデン

チャーを作った。

セットしたら、義歯は落ちなく

てよいが歯並びが気に入らないと

いう。下顎の残存ブリッジが少し

大きくて前突しているために義歯

が少し出っ歯気味に感じるらしい。

ロウ義歯の試適の段階で何度も修

正したあげくの結果だ。術者側の

目からみれば決しておかしくはな

いのだが、患者さんの満足が得ら

れないのは気分が悪い。しかもこ

の患者さんはアポイントをいつも

きちんと守るし、物腰も柔らかく

感じのよい人だ。どうしても気に

入らないというので再製すること

にした。

再び試適の段階。なるべく前突

にならないように切端咬合気味に

配列した。若干バイトを低めにし

て歯が見える量を少なくした。ロ

ウ義歯を口腔内に入れてみるとや

っぱり気に入らないという。チェ

アーサイドでああでもないこうで

もないと、さんざん配列をやり直

してみたのだが満足してもらえな

い。僕は少々イラついてしまった

ので、改めて時間を予約して、次

回また試適を行うことにした。

ところが予約の日に来ない。こ

れまで一度もアポイントを変更し

たり遅れたりしない患者さんだっ

たのに。受付が電話をしても連絡

が取れないままだ。

僕のぞんざいな態度に愛想が尽

きたのか、診療に満足できず見切

りをつけたのか? 治療費ももら

っていないし、患者さんに嫌われ

てしまったことにもいささか落ち

こんでいた。

そんなところに新患が。知り合

いのある会社社長がインプラント

をして義歯を入れたら具合がよく

て見た目もいいというので、自分

も治療を受けたいという。よくよ

く話を聞いてみると、その会社社

長というのはくだんの患者さん。

なんだ、満足していたんじゃない

か! いろいろクレームをつける

ことで治療費の支払いを渋ってい

たんだ!!! こりゃ詐欺じゃないか。

僕はカリカリしながら受付に言っ

た。

「すぐに請求書を送りなさい!!」。

(デンタルダイヤモンド 1995年11月号掲載)

投稿者 takagi : 12:43 | コメント (0)

「歯内療法」

●月●目

診療中に腹が立っこと。

若くて(?)綺麗な(??)衛生

士が側にいてくれるだけで幸せな

はずなのに、突如としていら立ち

の原因になることがしばしば。

エックス線写真。確かこの患者

は右上の4番の抜髄のはずなのに、

シャーカステンには左上のエック

ス線写真がかけてある。あれれ、

と思って患者の口腔内をのぞき込

むと、やっぱり右上が患歯だ。よ

くよくシャーカステンの写真を見

直すと裏返し。「おいおい、注意し

てくれよ。小さなミスが、大きな

過失を生むんだから」

衛生士に「抜髄の用意」と言っ

たはずなのに、麻酔の用意までは

よかったが、次に出てきたのが抜

歯鉗子とエレベーター。「おい、耳

が遠いのか?」

根充のとき。シーラーを練って

もらう。練板から流れるくらいに

ゆるい。「もっと粉を入れて、もっ

と練り込め」と注文。今度は硬す

ぎてボソボソ。「おいおいおい、加

減というものを知らないのか!」

僕が立ち上がろうとしたとき、

いきなり無影灯に頭をゴツン。

衛生士を怒っちゃダメ。恨まれ